薬草を塗りながら話そう

 現在の状態ではカンダタに挑むのはちょっと無謀、と判断したレドルたちはシャンパーニの塔をすっ飛ばし、先にノアニールの村の呪いを解くためにノアニール西の洞窟に立ち入った。
 だが、さすがに無謀だったかもしれない・・・とレドルもシェリスも感じていた。魔物たちから受ける一撃のダメージがカザーブ周辺で戦っていた敵とは比べ物にならないほど大きく、ほぼ毎度満身創痍の状態になってかろうじて生き延びていたからだ。
「ぜぇ、はぁ・・・。な、何とか今回もしのぎきれたな・・・。大丈夫か?」
「う、うん・・・何とか生きてる、って感じだけどね・・・。ちょっと、先走り過ぎちゃったかな・・・」
 今の2人は全身のあちこちに傷を負い、その場に座り込んで応急処置の真っ只中であった。2人とも戦闘経験はとりわけ多く、修羅場は何度も潜ってきている。それでも、これだけの手傷は免れなかったのだからここの魔物はよほど強いのだろう。
「戦闘開始直後にスクルト唱えてるのに、それでもあれだけ響くとなると・・・やっぱり、私達の今の装備じゃ全然ダメなんじゃ・・・あ、薬草いる?」
「ん、使う使う・・・。そうは言ってもなあ、ノアニールの呪いが解ければいい武具があるかもしれないけど、今はその呪いを解くための過程の真っ只中だしな・・・。今のより強い防具とか買いたかったら、アッサラームあたりにでも行くしかないんじゃないか?」
「・・・アッサラーム・・・あそこはやめたほうがいいわ・・・。通常価格の何十倍近くも吹っかけられたって報告が城にも届いてるし、おまけにそっちに行ったら今以上に強い魔物に四苦八苦するかも・・・」
 そこまで聞いて、レドルは固まってしまった。今でさえ苦戦気味なのに、アッサラームに行こうしたらもっと苦戦するのは確実・・・。
「う゛ーむ・・・そういうことなら、しばらくはここらで何とか頑張るしかないみたいだな・・・。おし、こっちは何とかなったから今度は俺が薬草塗ってやるよ」
「あ、ありがとー。・・・ところで、ここに来ることを提案した私が言うのも何だけど・・・カンダタ放っておいていいのかしら・・・?完全にシャンパーニの塔を無視してここ来たし・・・」
「別にいいだろ、二次被害とか出たらそれらの件もまとめて一挙に捕まえればいいだけだし。寧ろそのほうが手間かからなくていいじゃねぇか?・・・ほい、塗り終わったぞ」
「し、染みる〜・・・。た、確かにその方法なら手間はかからないけど・・・。でも、仮にも自国の治安を王族の私が見逃すってのは・・・何となく、罪悪感を感じるような・・・」
 ロマリア王族として、自国の領民が盗賊カンダタの更なる被害に遭うことがわかっていてそれを見過ごすのは、気が引けてしまうシェリス。ここまで国民のことを思いやれるならば、彼女はいい王女です。
「まあ、そりゃそうだよなあ・・・。でも、あと数日ここで鍛えないか?そうした上で、二度とカンダタが悪事を行おうって気が起こらない程度に叩きのめせるくらいの実力をつければ、もうカンダタ被害は起こらなくなると思うんだが」
 この一言は、大いにシェリスの心を揺さぶった。完膚なきまでに叩きのめし、自分達の力を相手に理解させる。そうすれば確かに、もう悪事を行おうなんて考えはもてなくなるに違いない。
「わかったわ、私やるわ!!あと数日ここで徹底的に鍛え上げて、カンダタとその手下たちに私達の実力の程を身をもって教え込んでやるわ!!」
「おーっ、そうこなくちゃな!!じゃあ・・・そこの回復の魔方陣に乗って回復しようか」
 体力的に劣るシェリスに肩を貸し、レドルは回復の魔方陣まで身体を引き摺りながら歩いていった。ただし、その後2人は疲れのためか、魔方陣の中で寄り添うようにして寝てしまったらしい。

作者:かがみ陸奥さん

 勇魔同盟の、1周年企画用に即興で書かせていただきました。テーマ的には「薬草」要素が結構強いですね。一応スカラの強化版であるスクルトも入ってますが戦闘中のみで話の中では使ってないです。ちなみに、この話に関してはほぼ実話です。本当にシャンパーニの塔を無視してノアニール西の洞窟に行きました。ついでにノアニール村そのものも実は無視しちゃってます。ところで、薬草は今回の話では塗りこみ形式を取っていますが・・・他にも直接食べたりとかありそうですね。もしかしたら、どんな方法でもOKかも!?